クスリはリスク

更新日:2020/07/15

始めから読んだ場合と終わりから読んだ場合とで文字の順番が変わらず、言語として意味が通る文字列なので、これは回文(英語ではpalindrome) です。私は「クスリはリスク」が、医学領域では一番の回文だと思っています。

今から35年前、私がまだ医学部の学生だった頃、最初の薬理学の授業で、これだけは覚えておくようにと言われたのが「クスリはリスク」でした。短い回文で覚え易くて真実なので、教えを守り、未だに忘れていないです。

生物が摂取する物は、食物と毒物に大きく分けられます。食物は体にとって栄養になるので望ましい物で、毒物は体に良くない作用をもたらすので望ましくない物です。薬物は、体に特有の作用をもたらすけれども決して栄養にはならないので、限りなく毒物に近い物です。病気で症状がある場合のみ、薬物を服用することで引き起こされる作用で症状が緩和されることが望まれるので、毒物と区別されるだけです。毒物は摂取量が多かろうと少なかろうと毒です。薬物は少なければ効果がなく。適量を超えて過剰に摂取すれば副作用が現れて、毒物としての本性を現します。医師または薬剤師という専門知識を有する専門職だけが、本来毒物である薬物を適切に使用して薬物にできるのだから、これから始まる薬理学の授業では毎回しっかり勉強しなさいという言葉で、最初の授業は締められました。

薬理学は好きな教科だったのでよく勉強して成績も良かったのですが、私は熱心な「クスリはリスク」教の信者なので、クスリ好きではありません。患者さんからしょっちゅう病気をうつされて熱が出たり下痢をしたりしていますが、めったにクスリは飲みません。発熱、鼻汁、咳嗽、嘔吐、下痢、痛みなど、どれも嫌な症状ですけれども、全て体を守るための防御反応なので、焦ってすぐに症状を取り去ろうとするよりも、症状を受け入れてこれを利用して病気を早く治し、どうも自力では難しそうだと判断される、ここぞという時点で薬物は使うべきです。診断の付く前のクスリの早打ちなど失敗のもとです。

疫学データを総括すれば、日本人が長生きになったのは、どちらかと言えば医療の進歩と普及よりも栄養と環境が良くなったからです。つまり、薬物より食物のおかげです。「クスリはリスク」と念じて日々の診療をしていますので、もし診療の合間に質問していただけたら、クスリ以外の健康生活のコツのようなものをお伝えできると思います。

2015.7.3

岸和田は、せっかちな人が多いようで、すぐに治してくれ、すぐにクスリを出してくれと言われて困ることが多いです。常々、時間に余裕があれば、「クスリはリスク」を、全員に伝えたいと思っているので、2つ目のコラムはこの題にしました。

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